尾張一宮駅から車で10分ほど走ると、尾州の青空を写し出す鏡張りの巨大な建物がある。そこが海外に紡績工場、一宮市内に糸染め、織り、編み、整理加工までの各工場を持つ、中伝毛織株式会社の本社である。
1960年、中伝毛織は自社に機械設備を持たない親機という形態で事業をスタートして、1971年に丸編み工場を設立と共に導入したニットマシーンが初めての自社設備だった。現在の中伝毛織は、76台の織機、39台の丸編機、4台の横編み機を持ち、小ロットから大量ロットまでの幅広いオーダーに応えながら、24時間体制で稼働している。さらに、尾州産地内で約100社の協力工場があり、業界トップクラスの生産力を誇る尾州産地を代表する企業となった。分業・協業で成り立つ繊維産地で、一貫設備を持つ企業は非常に珍しい存在だ。
これだけの機械を抱えるということは、それを動かす職人も社内で抱えるということになる。そのリスクの先のリターンは、成熟したチームワークをもって、新しいものづくりに常にチャレンジでき、より高品質かつ安定したものづくりを、短い納期で追求できるというところだろう。工場の数が減りつつあるこの時代に、自社で一貫設備を持つのは大きな強みになっている。長い先行投資を経て築かれたものづくり集団が社内にいるからこそ、新しい機械を導入することもできる。
中伝毛織の工場内の至る所で存在感を発揮しているのは、最新鋭の機械たちだ。2台の見本製経機に加え、「経通し」にかかる職人の手作業の時間を大幅に削減することのできるオートドローイング機は、多品種小ロットのオーダーへのクイックレスポンスを可能にしている。機場では、異種異番手糸に対応するドイツ製のドルニエ織機9台が稼働していて、そこに「からみ組織」を生み出す特殊装置やネームジャカード機が搭載されている。さらに、複雑な組織を表現する20枚綜絖の高速織機から、高速のエアー織機など最新鋭の織機がずらりと並ぶ。島精機製作所社の新作ニットマシーン「SRY183LP」は、織りと編みが融合した新感覚の生地(Knit+Weave=「Kneave」)を編み出すことのできる優れもので、開発した素材は見本市や商談でもデザイナーからの引き合いが強いとのことだ。
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テキスタイルの表現をとことん追求して、設備投資を続けてきたこその中伝毛織の圧巻のマシーンのラインナップである。これだけの最新鋭の機械が並ぶからには、機械と素材の両側面に対して双方の理解のある職人の存在が必要不可欠となるが、そこで活躍するのが内部にいる手練れの職人たちということである。職人の技と最新機械の掛け算が生む出すテキスタイルが中伝毛織の最大の魅力である。こんなテキスタイルメーカーは世界中探しても他にないだろう。
冒頭にも書いたが、こういった中伝毛織のクリエイティブでイノベーティブな環境が大ロットのみならず、各国のデザイナーズブランドとの協業を後押ししてきた。「Milano Unica」にも4年間の出展を続けているが、欧米のラグジュアリーブランドにも中伝毛織のテキスタイルは着々と広がっているとのことだ。「インターナショナル・ウールマーク・プライズ」2017年度大会のウィメンズウェア部門で優勝し、現在NYファッションウィークでコレクションを発表する「ガブリエラ・ハースト」とのコラボレーションも発表が控えているというので、素材を熟した両者によるアウトプットが待ち遠しい。
中伝毛織のオフィシャルサイトはこちらから。